【第2世代GT-Rの心臓】伝説の名機RB26ってどこがそんなにすごいの?

R32型以降3世代・約13年間にわたり搭載された、「RB26DETTエンジン(以下R26と表記)」は、レースで勝つことを目的に生まれ見事それを果たした、自動車史に残る「伝説の名機」です。

ただ、伝説と化したR32のすさまじい戦績や、基本スペック程度はご存知でしょうが、プロやマニアの間で「制御された野獣」と評される真の実力について、熟知している方は少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、名機・RB26の魅力を知っていただくべく、インパクトでは引けを取らない先代モデルの伝説を紐解いた後、プロ目線で見たRB26のすごさについて解説していきます。

他機を時代遅れに追いやる驚異の「出力ポテンシャル」

1989年8月、まだかまだかと待ち焦がれるGT-Rファンに前へ、約16年もの長い沈黙を破ってお目見えした3代目R32型GT-Rには、「隔世」というべき驚異の高スペックエンジン、「RB26」が搭載されていました。

【R26エンジンスペック諸元(R32搭載時)】

形式 直列6気筒DOHCツインターボ
ボア×ストローク 86.0×73.7(mm)
総排気量 2568(cc)
圧縮比 8.5
最高出力 280ps/6800rpm
最大トルク 36.0kgm/4400rpm

市販車の最高出力こそ、自主規制によって「280PS」に形式上抑えられていましたが、至ってライトなチューニングを施すだけで、公道の弾丸のごとく駆け抜ける「モンスターマシン」に仕上げることが可能でした。

それどころか中には、BCNR33用5層インタークーラーや、オリジナルサージタンクなどで徹底的に吸入効率を追求し、随所を強化したうえでブースト圧を「限界」を大幅に超える2.1に設定、「1,100PS」を叩き出す化け物R32も存在します。

もちろんこれは、高負荷にさらされるクランク・シャフトを「使い捨て」と割り切った、ぜいたくなタイトチューンによるものですが、もし筆者がノーマルR32を渡されグループAを席巻したスペックまで高めてほしいと依頼されたら、実施するチューニングは3段階。

まずは基本中の基本、エンジンが気持ちよく呼吸できる環境つくり、つまり吸排気系統の見直しからスタートし、

  • HKS製スーパーターボマフラー(メイン85φ・テール115φ)
  • SADE製スポーツキャタライザー
  • トラスト製エアインクス(エアクリーナー)

などを採用。

そのうえで経年劣化が予想される、純正燃料フィルターやフューエルストレーナーを新品に交換、これだけで50PSはアップしコストも「工賃込み」で約25万円程です。

次のステップは、HKSがリリースしているブーストコントローラー、「EVC6」で過給圧を1.1~1.2キロに引き上げ、これまたHKS社の「F-CON Vプロ」で現車合わせセッティングを実施します。

これで最高出力は400PSに到達し、新品クラッチが一発で滑るほどの高トルクが手に入りますから、強化クラッチの導入も同時に検討すべきで、チューニングコストはクラッチ交換ナシで30万円程度。

通販などで頑張って探せば扱いやすく耐久性にも優れた、筆者イチ押しのORC製のメタルシングルクラッチが12~15万円あたりで購入できるので、持ち込み工賃含め20万円あれば強化可能です。

最終段階は、パワーを生み出す「肝」と言えるターボタービンの交換で、実用回転域でのトルク面積が広くノーマルエンジンとの相性が良い、HKSの「GTIII-SSスポーツタービン」がおすすめ。

この時点でECUをリセッティング、ブースト圧を1,3~1,35程度まで高めるので、ヘッド・インマニ各ガスケットをメタル製に交換し、同時に燃料も不足気味になるため容量アップを図るべく、「NISMO600ccインジェクター×6」に換えちゃいましょう。

最終段階のチューンコストは大体60~70万円程、3ステップトータルで150万円費やせば、グループAでシエラと対等に勝負できる、「MAX500PSのR32」が誕生します。

何より「すごい」のは、ボアアップやピストン研磨など緻密かつ高度な技術が必要なヘビーチューンではなく、パーツ換装とCPU設定のみで楽々500PSをオーバーするうえ、それを簡単に受け止め路面に伝える、強靭なパワートレインと足回りをR32が有していること。

このチューニングした際の素性の良さは他機を圧倒しており、500~600PS程度はお茶の子さいさい(古い!)、1,000PSを大幅に超えるパワーを引き出すことも可能な強心臓、それがRB26というエンジンなのです。

幸い、R26は登場から30年経過した今でも、高性能な最新パーツが豊富にリリースされているため、RB26に対する知識が豊富で腕の良いメカニックがいるカーショップなら、もっとリーズナブルなコストで、オーナー好みのR32を仕上げてくれるでしょう。

市販車と呼ぶにはあまりにも高い「剛性」


出典:wikipedia

RB26は「セールス実績」や「企業イメージアップ」が目的ではなく、「レースに勝つ」という一点だけにこだわって開発された、稀有極まりない生粋のレース専用エンジンです。

課せられた使命は600PSを発揮してのグループAの完全制覇であり、自主規制枠いっぱいの280PSという数字は、「連続する12ヶ月間で5,000台以上生産」という規定をクリアするためのコンプライアンス対策でしかない「完全な後付け」。

その結果、日産の技術者たちに本来600PSを出すR26を、なんとかして自主規制枠に収めようと、ブーストを落としパワーが出にくいマフラーを装着、加えてエキマニとタービンのつなぎ目を極端に細くしたりと、「逆チューン」に尽力したのです。

この市販車として売り出すための、コンプライアンス対策を逆行すれば、誰でも簡単にグループAで勝てるR32に「戻せる」訳ですが、元来RB26が持ち合わせている高馬力に耐える「エンジン剛性」が失われるわけではない。

これこそ、素性の良さを支える需要ポイントなのですが、当時の市販車とは一線も二線も画すエンジン剛性の高さ、特にエンジンにとって「核」ともいえるシリンダーブロック強度に関しては、他機を全く寄せ付けない強さを誇っています。

具体的には、クランクシャフトを支持するキャップを、一体式のラダーフレームにして剛性を高めたうえで、シャフト軸受け部とリブ結合することで補強。

ちょっとメカニカルすぎてわかりにくいかもしれないので、スポーツに例えるなら100m10秒を切る短距離アスリートに、フルマラソンを走破できる心肺能力と持久力をプラスしたようなもの…、そりゃバカ速いに決まってます。

ご存じのとおりRB26は、CPUの進化やバルブタイミング等の最適化で、多少トルクアップしているものの、構造的には手付かずの状態で後継であるR33・R34にも搭載されましたが、その理由は数年先を行くこの「エンジン剛性の高さ」にあると言えるでしょう。

ハコスカ・ケンメリへの移植も!優れた「汎用性」

汎用性については少し話を戻しますが、RB26を含むRB系エンジンは同じ直噴6気筒エンジンであるL系の後継として1984年ごろから生産が始まり、

  • セフィーロ
  • ローレル
  • クルー

など、80年代後半から90年代にかけて日産のミドル・ビッグマシンに搭載された、同社の代表的エンジンです。

そして、素性の良さと剛性の高さから前述したRB系車種に、RB26(もちろんDETT)を丸ごと移植する「エンジンスワップ」が流行し、見た目はローレルなのにツインターボ仕様でカッ飛んでいく、「トンデモ車」が多数登場しました。

また、完全移植とまではいかなくてもサージタンク及びパイピングを交換すれば、RB26の魅力の1つである独特のファンネル吸気音を再現できる、「多連スロットル化」も可能。

さらに、ハコスカ・ケンメリ・セブンスなどの歴代モデルに、RB26が移植されている実例もあるほか、最高速チューンでカーショップ「トップシークレット」に至っては、HKS製ツインターボ仕様で1,000PSをたたき出したR26を、スープラに完全移植しています。

このように汎用性の高いR26は、メーカーや世代を超えエンジンスワップにおいて人気の高い名機と言えます。

しかし筆者が最も驚いたのは、第二世代GT-Rが最強の座に登り詰めた、もう1つの要素である電子制御四輪駆動システム「アテーサET-S」を、RB26(R33)ごとまるッと移植した怪物マシンが存在することです。

ベースにされたのは、2012年に登場したトヨタ「86」の北米仕様であり、R33より300kg以上軽い86にRB26をぶち込んでしまうという、常軌を逸したチューンにトライしたのは、「Prime Motoring」という米国ニュージャージー州にあるチューニングショップ。

代表を務めるディミトリ・ザントスも、最初はバカげた発想だと一笑に付したそうですが、盟友であり、ビジネスパートナーでもあるジュニオール・バリオス所有のR33をドナーとし、試しにRB32を仮置きしたところ想像以上にフィット。

多少の拡張は必要だったものの移植は意外にスムーズにできたらしく、今後は「日産(RB26)の音がする1,000PSオーバーの86」という、悪魔的攻撃力と絶大なインパクトを持つモンスターが、近々に誕生することになります。

まさに黄金世代!RB26としのぎを削ったライバルたち

先代モデルが刻んできた数多くの伝説や、スペックとチューニング後の素性の良さや剛性・汎用性の高さを語っていくだけで、R32が名機と呼ぶにふさわしい自動車史に残る傑作であることは、十二分に伝わったはずです。

しかし、いまだにRB26しいては第二世代GT-Rが伝説として語り継がれ、多くのファンが夢とロマンを抱き羨望のまなざしを向けているのは、王・長嶋に金田が若貴兄弟に曙が立ち塞がったように(例えが古い…)、時代を彩る「好敵手」が存在したです。

という訳で最後に、RB26が大活躍した日本スポーツの黄金期、国内外のレースで激しく争った車種に搭載され、RB26に劣らぬ名機と謳われているライバルたちを紹介し、この記事を締めくくりたいと思います。

スープラ以外にも搭載!トヨタ・最強エンジンの呼び声も高い「2JZ-GTE」


出典:race247.com

第二世代GT-RのうちR32に関しては、「同クラス・同レギュレーション」を前提にすると「無敵状態」だったため、正直ライバルが筆者も思い浮かびませんが、R33を苦しめた存在と問われれば、真っ先にトヨタ・スープラ(A80型)を挙げることができます。

セリカから独立し、スープラと社名変更された先代・A70型もグループAを始めとする国内外のレースに参戦、87年の第4戦では見事勝利するも以降はまったく振るわず、R32が参戦すると全く歯が立たないまま91年に撤退。

A70スープラの最速グレード、「2,5GTツインターボ」へ搭載された1JZ-GTEも名機には違いないのですが、RB26に対抗しうるポテンシャルを手に入れたのは、1993年に登場した「2JZ-GTE」であると考えています。

形式 直列6気筒DOHCツインターボ
ボア×ストローク 86.0×86.0(mm)
総排気量 2,997(cc)
圧縮比 8.5
最高出力 280ps/5,600rpm
最大トルク 46.0kgm/3,600rpm

特筆すべきストロングポイントは2つ、まず最大トルクはR32の約1,3倍をたたき出しているうえ、後継であるR33(37,5kgm)・R34(40,0kgm)も上回っています。

トルクとは自転車に例えると、ペダルを踏み込む力の強さであり、最大トルクに到達する回転数も少ないため加速力に関しては、2JZ-GTEの方がRB26より勝っていたということです。

またスカGT-R同様、自主規制で最大出力は280PSに抑えられていますが、トルク同様低回転域で最大出力を引き出せる特性から、最高速度に達するのがRB26より数段早い。

しかしその反面、タイトコーナーが連続するサーキットレースや、悪路走行時緻密なアクセルワークが必要となるラリーでは、RB26よりパワーバンドが400rpm狭いことが災いして「直線番長」と化し、イマイチ戦績が振るいませんでした。

数多くのツーリング選手権で結果を残した、某有名ワークスチーム代表にして、「エンジンの回り方を『切れ味』に例えるなら、RB26は出荷時点で包丁くらいの切れ味がある。2JZはせいぜい模造刀くらいだ。」と酷評されてしまったのもそのためです。

一方、直線コース上でタイムを競うドラッグレース界では、2JZ-GTEが世界最強の市販エンジンと評価され、かくいう筆者もサーキットや峠を舞台としたレースゲームではGT-Rをチョイス、ゼロヨンゲームではA80スープラで最高タイムを出していました。

ちなみに、現在はレクサスGSとして販売されている、2代目アリストの最高グレード「V」にもこの2JZ-GTEが搭載されており、社名の由来となった「最上」を具現化する、ハイパワーとラグジュアリー感を併せ持つ、最上級セダンとして人気を博しました。

実は筆者の愚弟が、当時乗り回していたのがこのアリストVであり、幾度か運転した経験もあるのですが、豪華な内装と落ち着いた佇まいに惑わされてうかつにアクセルを踏むと、「ドスン」と強烈なGを発して加速します。

当時、「この車に乗ってたらスピード違反で捕まるか、最悪事故ってしまうな…。」と感じたのを鮮明に覚えています。

ハイパワー&コンパクト!マツダ独自のロータリーエンジン「13B-REW」


出典:Engine Specifications and Reviews

もう1つ、RB26の強力なライバルとして忘れてはいけないのが、マツダイズムが詰まりまくったロータリーエンジンの最高傑作、1991年投入の3代目FD3S型RX-7に搭載された、「13B-REW」の存在です。

1つあたり654ccの三角型ローターを2つ直列に繋げた、わずか1,308ccのコンパクトなエンジンですが、RB26に匹敵する最高出力(初期255PS・中期265PS・後期280PS)を叩き出しているうえ、何より車重がR33よりも200km以上軽い。

結果、「車重÷最大出力」で算出されるパワーウェイトレシオが、「5,4kg/PS」であるR33に対し、同じ最高出力である後期RX-7のそれは「4,5kg/PS」と、1馬力が担当する重量に約1kgもの大差がついています。

これだけの差が生じると、加速性能だけではなくブレーキの制動距離、燃費性能、さらにタイヤの持ち具合など、様々な要素で走行時有利になってきます。

もちろんパワーウェイトレシオだけで、単純にレースでの強さを決めることはできず、そもそもRB26と13B-REWでは排気量が違いすぎるため、排気量でクラス分けされるJTCやJTCCでは直接対決の機会が限られます。

そして、13B-REWが実力を発揮しRB26に勝る活躍を見せたのは耐久レースで、デイトナ24時間耐久では1992・93年GTUクラスを連破、バサースト12時間耐久に至っては3年連続総合優勝という快挙を成し遂げ、ロータリーの存在を世界に見せつけました。

一部のアンチからは、「ロータリーは高出力なのに軽量だから耐久性がない」なんて指摘もありますが、世界3大耐久レースであるデイトナを制した13B-REWが、耐久性に乏しいなんてセリフ、筆者には口が裂けても言えません。

ちなみに第2世代GT-Rも挑戦した、「ル・マン24時間」の91年大会で国産車として初めて優勝、日本中を歓喜させた「マツダ・787B」のエンジンは、この13B-REWがベースです。

再び黄金時代がやってくる!?

今回、RB26のすごさを再確認できたと同時に、「NA最強」と言えるNSX-Rの「C30A」や、WRCで大暴れしたランエボ第一世代(92~95年)に搭載された「4G63」など、キラ星のごとく名機が登場したこの頃は、「本当に楽しい時代だったなぁ」と改めて感じます。

そして今年、スカGT-R最強のライバルだったトヨタ・スープラが、初代から続く「ロングノーズ・ショートデッキ」と呼ばれるパッケージングはそのままに、BMW製の340PSオーバーエンジン「B58」をひっさげ大復活。

新型スープラが現行GT-Rと熾烈な覇権争いを展開し、レースシーンが以前のように活気づけば、再び国内スポーツの黄金時代が必ずやってくる!、と筆者は期待しています。